UGC施策の事例を調べていると判断に迷う場面が3つあります。施策の種類が多く、どれが自社向きか決められない。成功と書かれていても、その数字をどこまで信じていいか分からない。そして参考にしたい事例が見つかっても、同じことをして同じ結果になる保証がない。

これらはいずれも事例が「何をやったか」だけで語られていることに原因があります。判断に必要なのは、その施策でUGCが生まれたきっかけが何だったか、そしてその事例が成立した条件が自社にもあるかどうかです。

この記事では、10件の事例をUGCが生まれたきっかけごとに4つに分けて整理しました。あわせて、商材カテゴリによって購買に影響する発信者が変わるという調査データと、事例に書かれた成果の読み方も扱います。

この記事でわかること

✔事例が再現しない理由
UGCの成否は商材カテゴリと投稿の蓄積量に左右される。他社の型をそのまま持ち込んでも同じ結果にはならない。

✔きっかけ別に整理した10の事例
インフルエンサー起点・企業の企画起点・投稿導線の整備・二次活用の4つに分け、条件と成果を並べて示す。

✔自社に当てはめる判断手順
商材カテゴリと現在の投稿量から、参考にすべき事例を絞り込めるようになる。

1. UGCマーケティングとは

UGCは「User Generated Content」の略で、生活者自身が作成したコンテンツを指します。SNS投稿、ECサイトのレビュー、店舗のクチコミ、個人ブログの記事などが含まれます。企業が制作したものではなく、商品に触れた人が自分の言葉で発信したものです。

UGCマーケティングとは、このUGCが生まれる状態をつくり、生まれたUGCを事業に活かす一連の取り組みを指します。大きく分けると次の2つです。

  • UGCを生む:投稿が生まれる理由と、投稿の仕方が分かる状態をつくる
  • UGCを使う:集まった投稿をECサイトや広告、店頭に展開する

この記事の事例も、この2つのどちらか(あるいは両方)に該当します。定義や、UGCとIGC・CGMの違いについては別記事で詳しく扱っているため、ここでは前提の確認にとどめます。

関連記事:UGCとは?クチコミが増え始める「最初の投稿」の設計

2. 事例一覧

この記事で扱う事例一覧です。業界から探す場合はこちらを起点にしてください。

 

企業・ブランド

業界

主なSNS

UGCが生まれたきっかけ

1

ワークマン

作業用品・アパレル

Instagram / YouTube / X

インフルエンサー

2

八天堂

食品

Instagram

インフルエンサー

3

明治

菓子・アイス

X

企業の企画

4

ミスタードーナツ

外食

X / Instagram

企業の企画

5

e.l.f. Cosmetics

化粧品

TikTok

企業の企画

6

キリン

飲料

Instagram

投稿導線の整備

7

ベースフード

食品

Instagram / X

投稿導線の整備

8

ニトリ

家具・インテリア

Instagram

二次活用

9

GU

アパレル

自社アプリ(StyleHint)

二次活用

10

GoPro

カメラ

Instagram / YouTube

二次活用

3. 事例を読む前に押さえたい2つの前提

事例に入る前に、読み方の前提を2つ共有します。同じ施策でも成果が変わる要因が、この2点に集約されるためです。

3-1. カテゴリによって効く発信者が違う

エクスクリエの調査(2026年8月)によると、SNSや動画サービスの情報を参考に直近購入した商品について、購入決定に最も影響した発信者は、日用品・生活消耗品で「一般ユーザー」が34.7%と最多でした。食品・飲料・菓子(28.1%)、コスメ・スキンケア(25.2%)でも同様に一般ユーザーが最も高くなっています。

一方、ファッション・アパレルでは「企業やブランドの公式アカウント」が30.2%で最多となりました。同じSNS経由の購買でも、カテゴリによって影響力を持つ発信者が入れ替わっています。
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関連記事:
【エクスクリエ調査レポート】SNS・動画サービスにおける購買行動に関する調査(2026年)

この違いは、事例の読み方に直接影響します。アパレルブランドの事例で「公式アカウントがユーザー投稿を紹介した」という施策が機能していたとしても、それはアパレルというカテゴリで公式アカウントが元々信頼されているという条件があってのことかもしれません。日用品メーカーが同じことをしても、同じ効き方はしない可能性があります。

事例を見るときは施策の内容だけでなく、その商材カテゴリで誰の言葉が信頼されているかを合わせて確認してください。

3-2. 「成果」として何が報告されているかを見る

もうひとつは、事例に書かれた成果指標の読み方です。

UGC施策の事例では、投稿数の増加、指名検索の増加、CVRの改善といった数字が挙げられます。このうち注意が必要なのが指名検索です。

REECHでは、ある大手健康飲料系ブランドの店頭ID-POSデータと、指名検索数・UGC数・imp数を突き合わせた分析を実施しました。その結果、UGC数と指名検索数のあいだに明確な因果関係は確認しづらく、少なくとも同月比較ではUGCの増加が指名検索の増加に直結する傾向は限定的でした。指名検索は、UGCよりも広告出稿・店頭露出・ブランドのベース認知といった他要因の影響を受けている可能性が高いと考えられます。

一方でUGC数と店頭POSのあいだには一定の関係性が示唆されました。単月比較で因果を断定できるほどの一貫性はないものの、UGCが高まる局面ではPOSも高水準で推移する傾向が見られています。

つまり「UGCが増えて指名検索が伸びました」という事例を読んだときに、その2つを因果として受け取るのは早い、ということです。同じ時期に広告を出稿していた、店頭で大きく展開していた、といった別の要因が働いている可能性があります。

事例の数字は何と何を比べた数字なのかを確認したうえで参考にしてください。

関連記事:SNS効果測定の進め方|指標の選び方と評価設計

4. インフルエンサーの投稿から広がった事例

企業が依頼した投稿を起点に、一般ユーザーの投稿が続いた事例です。既存記事でいう「人起点」にあたります。投稿がほとんどない状態から立ち上げる場面で選ばれやすい方法です。

4-1. ワークマン|愛用者を公式アンバサダーに認定し、発信内容は指定しない

ワークマンは、自社製品の愛用者でSNS発信を行っている人を「公式アンバサダー」として認定する制度を運用しています。

きっかけは、SNS上の投稿から想定と異なる売れ方をする商品に気づいたことでした。雪寒地区の農作業向けに販売していた防水防寒スーツの、普段あまり動かないカラーが東京で急に売れ始め、調べてみると冬にバイクで着用しているという投稿が見つかったといいます。同社はこの経験を経て、テレビCMを止め、アンバサダー制度やUGC活用へマーケティングの軸を移しました。

制度の特徴は2点あります。ひとつは金銭的な報酬を支払っていないことです。2019年に本格化したこの制度では、アンバサダーとしての契約料や販売実績に応じたインセンティブは支払われていません。その代わりに、新製品の発表会やメディア向け内覧会への招待、新製品サンプルの提供、製品開発への意見反映という3つが提供されています。商品開発の打ち合わせにかかる交通費などの実費は同社が負担しています。

もうひとつは発信内容を指定しないことです。「こう書いてほしい」「これはダメ」という要望は出さず、そのほうが自然な声になるという考え方を取っています。

出典:ワークマンのアンバサダーマーケティング、報酬無償だから成果が出る理由|ダイヤモンド・チェーンストアオンライン / 【「ワークマン」にアンバサダーとUGC活用術を聞く】|日本ネット経済新聞

▼この事例から持ち帰れること
発信内容を指定しないという判断は、見本としてのUGCを生むうえで理にかなっています。構図も文言も指定された投稿は完成度が上がる一方、見た人が「自分にも書ける」とは思いません。真似できる余地が残っているかどうかが、その投稿が起点になるかを分けます。

一方で、この形が成立しているのは、製品の満足度が高く、発信したいと考える愛用者が既に存在していたためです。ワークマンは「#ワークマン」などのハッシュタグでエゴサーチを行い、継続的に発信している人に個別に声をかけています。愛用者がまだ可視化できていない段階の商材では、まず有償のインフルエンサー起用から始めるほうが現実的です。

なお、金銭的報酬がない場合でも、製品の無償提供や継続的な商品提供がある以上、広告であることの表示義務が生じるかどうかは個別の判断が必要になります。この点は10章で改めて触れます。

4-2. 八天堂|モニター投稿が、自然発生の投稿を呼んだ

菓子メーカーの八天堂は、モニターに指定のハッシュタグを付けて投稿してもらう取り組みを継続した結果、モニター以外の一般のファンも同じタグで投稿するようになったと報告しています。

出典:【事例で解説!効果的なUGCの増やし方】|SMMLab

▼この事例から持ち帰れること
注目したいのは、依頼した投稿と自然発生した投稿を分けて見ている点です。

インフルエンサーやモニターに投稿を依頼した場合、依頼した本数は確実に投稿されます。そのため、投稿総数を成果指標に置くと施策は必ず達成します。しかし、一般ユーザーの投稿が1件も増えていなくても達成に見えてしまいます。

見るべきは、施策の前後で自然発生UGCがどう変化したかです。この比較を行うには、施策の前に現在の投稿数を数えておく必要があります。ハッシュタグの表記ゆれを含めた検索条件を決め、基準値を記録してから着手してください。

5. 企業の企画がきっかけになった事例

企業が用意したコンテンツや企画が会話を生み、そこにユーザーの投稿が集まった事例です。商品そのものが会話の対象になりにくい場合や、既存商品に新しい話題性を加えたい場合に選ばれます。

5-1. 明治|ユーザーの発見を企画に変え、商品化まで戻した

きっかけは2021年11月、Xで「うずまきソフト」が「うますぎソフト」に見えるというユーザーの投稿が見つかったことでした。明治はこれを受けて、2022年2月に公式Xアカウントで2つのパッケージを並べた「まちがい探し」を出題します。その反響を受け、2023年7月下旬から実際の商品パッケージの一部を「うますぎソフト」に変更しました。商品名は「明治うずまきソフト」のままで、変更したのは箱6面のうち1面のみです。

同社の担当者は、パッケージの微妙な違いが面白さのポイントだと考え、あえて告知はしなかったと説明しています。結果として、店頭で見つけたユーザーによる投稿が多数生まれました。公式アカウントも「#うますぎソフト」を付けての投稿を呼びかけています。

出典:“UGC=お客様の声”を商品に還元。明治「うずまきソフト」に見るUGC活用|株式会社ホットリンク / 「あえて告知はしておりません」明治が定番アイス『うずまきソフト』の箱をいつのまにか変更した理由とは?|BuzzFeed Japan

▼この事例から持ち帰れること
UGCの発見から商品化まで、およそ2年かかっています。単発のSNS施策で完結しておらず、投稿のモニタリング、企画への転換、商品への反映という3つの工程を経ています。再現するうえで必要なのは企画力よりも、自社商品に関する投稿を継続的に見ている体制です。最初の発見は、投稿を見ていなければ拾えません。

もうひとつは、告知しなかったという判断です。企業が「変更しました」と発表すれば、それは企業からのお知らせになります。告知しなかったことで、気づいた人が自分の発見として投稿する構造が残りました。

関連記事:SNSキャンペーン成功事例12選|目的別の選び方も解説

5-2. ミスタードーナツ|投票という参加形式で投稿のハードルを下げた

ミスタードーナツを運営するダスキンは、2023年9月13日から10月23日まで、公式SNSアカウント(X・Instagram)とホームページで「#推しド総選挙2023」を開催しました。人気商品を5つのチームに分け、最も愛された商品への投票を募る企画です。総勢318,918票が集まり、1位のチームオールドファッションは93,961票を獲得しました。

出典:【ミスタードーナツ】総勢318,918票の投票から決定!『#推しド総選挙2023 1位決定!』|株式会社ダスキン

▼この事例から持ち帰れること
投票という形式は、参加のハードルが低いという点で優れています。写真を撮る必要も、文章を考える必要もなく、自分の好きな商品を選ぶだけで参加できます。

一方で注意も必要です。投票数はUGCの発生数ではありません。この企画で集まった318,918票のうち、どれだけがハッシュタグ付きの投稿として残ったかは公表されていません。投票キャンペーンを検討する場合は、投票という行為と、投稿というコンテンツが残る行為を分けて設計する必要があります。

また、投票やプレゼント応募を伴う企画では、景品の魅力度が応募数を大きく左右します。応募者の属性が自社商品のターゲット層とどれだけ重なっているかは、応募数とは別に確認してください。

関連記事:SNSキャンペーンとは?種類・目的別の選び方を解説

5-3. e.l.f. Cosmetics|オリジナル楽曲を用意し、参加の手順を固定した

アメリカの化粧品ブランドe.l.f. Cosmeticsは、2019年10月にTikTokで「#eyeslipsface」チャレンジを開始しました。ブランドがTikTokチャレンジのためにオリジナル楽曲を制作した初の事例とされています。同社の発表によると、この時点で10億回以上視聴され、40万本以上の参加動画が投稿されました。楽曲はグラミー賞受賞のソングライターらとの制作で、後にフルサイズの楽曲としてリリースされています。

出典:e.l.f. Turns Up the Volume on Beauty with Release of “Eyes. Lips. Face.” Song|e.l.f. Beauty

▼この事例から持ち帰れること
参加のために特別な編集や振付を必要としない設計が、投稿数につながりました。ここで効いているのは楽曲そのものというより、参加の手順が固定されているという点です。何をすればいいか分からない状態では投稿は生まれません。音源が決まっていれば、あとは自分の顔と手を映すだけで形になります。

ただし、この規模をそのまま目標に置くことはできません。著名人が依頼なしに参加したことが拡散の要因として挙げられており、これは設計で起こせるものではないためです。持ち帰るべきは数字ではなく、投稿のハードルをどこまで下げられるかという視点になります。

日本で同様の設計を行う場合は、楽曲の使用許諾やTikTokの商用楽曲ライブラリの制約を確認する必要があります。

6. 投稿導線の整備で増やした事例

投稿しようと思った人が、迷わず投稿できる状態をつくる方法です。起点をつくる力は限定的ですが、コストが低く、一定量の投稿が既に出ている商材では効率が高くなります。

6-1. キリン|ハッシュタグが定着するまで半年以上かかった

キリンでは、指定したハッシュタグで自然な投稿が生まれるまでに半年以上を要したと報告されています。

出典:【事例で解説!効果的なUGCの増やし方】|SMMLab

▼この事例から持ち帰れること
この記事で唯一、成果より時間軸に注目してほしい事例です。

ハッシュタグを用意して呼びかければ投稿が集まる、という前提で計画を立てると、3か月で成果が出ないという理由で施策が止まります。実際には、投稿が並んでいない状態のタグに最初の1人として投稿する人は多くありません。何を撮り、何を書けばいいかの見本がないためです。

半年以上という時間は、その見本が蓄積されるまでの期間と考えられます。社内で施策を提案する際は、立ち上がりに時間がかかる前提で計画を共有しておくことが、途中で打ち切られないための条件になります。

6-2. ベースフード|投稿の見本を冊子にして商品に同梱した

完全栄養食を販売するベースフードは、「BASE FOOD Labo」というユーザーコミュニティを運営しています。参加するユーザーは「研究員」と呼ばれ、毎月実施される企画で新商品の希望やオリジナル商品の提案を投稿しています。

同社によると、商品をマリトッツォやフレンチトーストにするといった手の込んだアレンジや、コンビニの新商品のプリンを挟んだという報告まで集まっているといいます。さらに購入者に対しては、「ベースフードジャーナル」という冊子を毎月同梱し、コミュニティで話題になったレシピや人気レシピのランキングを掲載しています。

出典:ユーザーがユーザーを動かす好循環。投稿が商品理解を深め、新商品を生む源泉に|Commune

▼この事例から持ち帰れること
同梱物を投稿導線に使う企業は多くありますが、この事例で特徴的なのは、同梱物の中身が他のユーザーの投稿である点です。ハッシュタグを案内するだけの同梱物は、投稿の理由にはなっても見本にはなりません。実際のレシピが載っていれば、それがそのまま投稿の型として伝わります。コミュニティに集まった投稿が、冊子を経由して次の投稿を生む構造です。

前提として、商品側に手を加える余地があることが効いています。アレンジできる商品は使う人ごとに投稿の中身が変わるため、投稿が飽和しません。投稿の中身が一通りしかない商材では、導線を整備しても早い段階で頭打ちになります。その場合は、商品単体ではなく使用シーンの文脈で会話をつくる方法を検討することになります。

7. 集まったUGCを二次活用した事例

生まれた投稿を、ECサイトや公式アカウント、広告に展開する方法です。UGCを増やす施策とは目的が異なり、既にある投稿の価値を引き出す取り組みになります。

7-1. ニトリ|ECの商品ページにユーザー投稿を紐づけた

ニトリは、公式通販サイト「ニトリネット」でUGC活用コンテンツ「みんなのニトリ」を公開しています。Instagram上で「#ニトリ」「#mynitori」「@nitori_official」が付いたユーザー投稿を、許諾を取ったうえでサイトに掲載する仕組みです。

投稿には商品が紐づけられており、閲覧者は気になる商品ページへ移動できます。商品ページ側にも「この商品を使ったみんなのニトリ」としてユーザー投稿が掲載されています。

出典:UGC活用コンテンツ「みんなのニトリ」がvisumo socialでリリース|株式会社visumo

▼この事例から持ち帰れること
家具は、部屋に置いたときのイメージが想像しにくい商材です。企業が用意した商品写真は背景も照明も整っているため、自分の部屋との距離が埋まりません。ユーザーが実際の部屋で撮った写真は、この距離を埋める役割を果たします。

商材に「使ってみないと分からない要素」があるほど、二次活用の効果は出やすくなります。 サイズ感、色味、実際の使用感。カタログスペックで説明しきれない部分が多い商材では、検討段階のユーザーにとってUGCが判断材料になります。

なお、一般ユーザーの投稿を二次利用する際は、投稿者への許諾取得が必要です。個別の連絡が発生するため、運用フローを先に決めておかないと現場が回りません。

7-2. GU|自社アプリに投稿を集め、掲載とマイル付与で導線をつくった

GUは、ユニクロと共同で企画・開発した着こなし発見アプリ「StyleHint」を通じて、ユーザーや店舗スタッフのコーディネート写真を集めています。投稿された写真からは商品ページへ移動でき、そのまま購入まで進める構成です。

投稿を促す仕組みも用意されています。GUが実施した投稿キャンペーンでは、掲載条件を満たした投稿者にジーユーマイル300マイルを付与し、オンラインストアやアプリ、公式SNSアカウント、メルマガに掲載される可能性があると案内されていました。

出典:StyleHint × GU 投稿キャンペーン|ジーユー公式 / StyleHint(スタイルヒント)公式サイト

▼この事例から持ち帰れること
SNS上のハッシュタグではなく、自社アプリを投稿の場にしている点が特徴です。投稿から購入までの導線を自社で設計でき、投稿データも自社に蓄積されます。一方で、アプリを開発・運用できる規模が前提になるため、この形をそのまま採用できる企業は限られます。

3-1で触れた調査結果と合わせて読むと、位置づけが見えてきます。ファッション・アパレルは、購入決定に最も影響した発信者として公式アカウントが最多だったカテゴリです。公式の場に掲載されること自体が投稿者にとっての価値になり、掲載された投稿が閲覧者の判断材料としても機能します。

同じ設計を日用品や食品で行った場合は、効き方が変わることが考えられます。これらのカテゴリでは一般ユーザーの発信のほうが購買に影響しているため、公式の場を経由させるより、ユーザー同士の投稿が並んでいる状態をつくるほうが目的に合う場面もありそうです。

なお、マイル付与のような対価がある投稿は、自然発生したUGCではありません。企業がそれを掲載する際に広告であることの表示が必要かどうかは、個別の確認が必要になります。この点は10章で扱います。

7-3. GoPro|ユーザーの映像を買い取る仕組みをつくった

アクションカメラを販売するGoProは、2015年から「GoPro Awards」という制度を運用しています。ユーザーがGoProで撮影した写真や動画を応募し、選ばれた作品に対して同社が対価を支払う仕組みです。

発表時点の条件では、写真500ドル、未編集の動画クリップ1,000ドル、編集済みの動画5,000ドルが支払われ、年間の総額は最大500万ドルとされていました。買い取った作品は、同社の公式チャネルでの配信やライセンス提供に使われます。制度は現在も継続しており、テーマ別のチャレンジが随時公開されています。

出典:GoPro Launches GoPro Awards|GoPro, Inc. / GoPro Awards|GoPro, Inc.

▼この事例から持ち帰れること
この事例が成立している条件は明快です。GoProの商品価値は「どんな映像が撮れるか」であり、ユーザーの投稿そのものが商品の性能を証明します。企業がどれだけ性能を説明するより、実際に撮られた映像を見せるほうが速い。だからこそ、対価を払ってでも集める価値があると判断できます。

自社商品にこの構造があるかどうかを確認してください。ユーザーの投稿が、そのまま商品の説明になっている商材では、二次活用の優先度が高くなります。逆に、投稿を見ても商品の良さが伝わらない商材では、二次活用よりも先に、何を投稿してもらうかの設計が必要になります。

なお、対価を支払って集めたコンテンツを企業が使う場合、日本では広告であることの表示義務の対象になり得ます。海外の制度をそのまま持ち込む前に確認してください。

8. 10の事例に共通していたこと

今回ご紹介した事例を並べて見ると、いくつか重なる点がありました。

  1. 投稿の型が見える状態をつくっている
    ワークマンのアンバサダー投稿、八天堂のモニター投稿、e.l.f.の楽曲を使った動画。いずれも、後から投稿する人にとっての見本が先に存在しています。キリンの事例が示すのは、この見本が蓄積されるまでに時間がかかるということです。投稿が増えない期間は、見本が足りていない期間だと考えると打ち手が決まります。
  2. 投稿の中身が一通りにならない設計になっている
    ベースフードのアレンジレシピ、ニトリの部屋写真、GoProの撮影映像。どれも投稿する人ごとに中身が変わります。同じ商品でも投稿が重複しないため、投稿が続きます。一方、商品を撮るだけで完結する商材では、早い段階で「もう誰かが投稿している」状態になり、投稿の動機が弱まります。
  3. 企業が投稿を見ている
    明治の事例は、ユーザーの投稿を拾えたことが起点でした。2021年に見つけた投稿が、2023年の商品パッケージにつながっています。ニトリの掲載やGUのアプリ運用も、投稿を見ていなければ成立しません。UGC施策というと発信側の設計に目が向きますが、実際には受信側の体制が成否を分けている場面が多くあります。
  4. 投稿数の先に何を起こすかが決まっている
    ニトリは商品ページへの導線、GUはアプリ内での購入、GoProは公式チャネルでの配信とライセンス提供。いずれも投稿が集まった後の使い道が先に設計されています。投稿数は施策が動いたことを示しますが、それ自体は事業の言葉ではありません。この点は次章で扱います。

     

9. 自社に当てはめる手順

事例を読んだ後に何をするか、順番を整理します。

9-1. 商材カテゴリから参考にする事例を絞る

3-1で見たとおり、購入決定に影響する発信者はカテゴリによって異なります。日用品・食品・コスメでは一般ユーザーが、アパレルでは公式アカウントが最も影響していました。

自社の商材がどちらに近いかで、参考にすべき事例が変わります。一般ユーザーの発信が効くカテゴリであれば、ユーザー同士の投稿が並ぶ状態をつくる方向。公式アカウントが信頼されているカテゴリであれば、公式が紹介する形式を軸にする方向です。

この時点で10件のうち参考にすべきものは2〜3件に絞れるはずです。

9-2. 現在の投稿量から起点の型を選ぶ

次に現在自社商品についてどれだけ投稿があるかを数えます。

投稿がほとんどない状態であれば、4章のインフルエンサー起点か5章の企業の企画起点から検討します。見本を先に用意する必要があるためです。一定量が既に出ているなら、6章の投稿導線の整備や7章の二次活用のほうが費用対効果は高くなります。

判断の順序としては、まず数えてから型を選ぶことになります。逆にはできません。

9-3. 実施前に基準値を記録する

施策の前に、現在の投稿数を記録しておいてください。ハッシュタグの表記ゆれを含めた検索条件を決め、その条件での件数を残します。

これがないと、施策後に増減を判断できません。特にインフルエンサーやモニターに依頼する施策では、依頼した投稿と自然発生した投稿を分けて数える必要があります。八天堂の事例で見たとおり、成果として見るべきは自然発生UGCの変化です。

あわせて、報告する相手を決めておきます。「クチコミが100件増えました」という報告に関心を持つのは、SNS施策の担当者だけです。営業部門や経営層に向けては、UGCが増えた時期と店頭消化率が動いた時期を並べる、二次利用によってクリエイティブ制作費がどう変わったかを示す、といった翻訳が必要になります。指標の設計と報告の設計は、同時に考えるものです。

10. 実施前に確認しておくこと

事例を参考に施策を組む際、確認しておきたい点が2つあります。

■広告であることの表示義務
2023年10月に施行されたいわゆるステルスマーケティング規制では、事業者の広告であるにもかかわらず、消費者がそれを判別しにくい表示が規制の対象とされています。判断の軸になるのは、事業者が表示内容の決定に関与したと認められるかという点です。

金銭的な対価の有無だけで決まるわけではありません。無償提供であっても、投稿を条件にしている、事前に内容を確認している、継続的に商品を提供しているといった事情があれば、関与があると評価される可能性があります。4-1で見たアンバサダー制度のように、報酬は支払わないが製品サンプルは継続的に提供するという形も、この観点での確認が必要です。

この領域は一律の線引きが難しく、施策ごとに個別の判断が必要になります。実施前に法務部門や弁護士など専門家への確認を推奨します。

■二次利用の許諾
一般ユーザーの投稿をECサイトや広告に使う場合、投稿者への許諾取得が必要です。ハッシュタグを付けた時点で使用に同意したことにはなりません。

インフルエンサーに依頼した投稿を二次利用する場合は、依頼時の契約に使用範囲を含めておきます。投稿後に許諾を取り直すことも可能ですが、条件交渉が必要になり、費用も工数も増えます。

11. まとめ

  • 購入決定に影響する発信者は、商材カテゴリによって変わります。 日用品では一般ユーザーが34.7%で最多、ファッション・アパレルでは公式アカウントが30.2%で最多でした。事例を選ぶときは、施策の内容より先にカテゴリを合わせてください
  • 成果として報告された指名検索の数字は、そのまま因果として受け取らないでください。 REECHの分析では、UGC数と指名検索の一致は限定的で、店頭POSとのほうが一定の関係性が示唆されています
  • 投稿がほとんどない状態なら、見本を用意する施策から始めます。 インフルエンサー起点か企業の企画起点。一定量が出ているなら、投稿導線の整備や二次活用のほうが効率的です
  • 立ち上がりには時間がかかります。 ハッシュタグが定着するまでに半年以上を要した事例もあります。計画段階で社内に共有しておいてください
  • 施策の前に現在の投稿数を数えてください。 基準値がなければ、後で増減を判断できません

10件すべてが自社に当てはまるわけではありません。商材カテゴリと現在の投稿量で候補を絞り、その事例が成立していた条件が自社にもあるかを確かめる。この順番で進めれば、どの型から着手するかは決められます。

【執筆者プロフィール】
兼重 成美
株式会社エクスクリエ マーケティングG

インフルエンサー会社でのキャスティング・ディレクション実務を経て、インフルエンサー施策をテーマにしたウェビナーの企画・運営に従事。現在はクロス・マーケティンググループにて、「エクスクリエ」「REECH」「トキオ・ゲッツ」の3社横断でマーケティングを担当。エクスクリエおよびREECHのオウンドメディア運営・コンテンツ制作を担い、REECHではSNS施策の実務情報を広告代理店・メーカーのマーケター向けに発信している。

インフルエンサーマーケティングならREECH DATABASE

REECHは国内70万件以上のインフルエンサーアカウントデータと3億件超の投稿データを保有するインフルエンサーマーケティングプラットフォーム「REECH DATABASE」を運営しています。視聴率・フォロワー成長率・過去の人気クリエイティブ検索など30項目以上の分析指標をもとに、再現性の高いキャスティングと効果測定を実現します。

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