ステルスマーケティング規制が施行されてから3年が経ちました。「#PRを付けてもらっているから問題ない」という認識で運用しているSNS施策は少なくありません。ところが公表されている措置命令を見ていくとインフルエンサーの投稿そのものではなく、その投稿を企業側がどう扱ったかが問われた事案が目立ちます。

規制の対象は依頼を受けたインフルエンサーではなく、依頼した事業者です。つまり表記のルールを守る責任はインフルエンサー側ではなく、発注する企業側にあります。それにもかかわらず、実務上のチェックがインフルエンサーの投稿画面までで止まっていることがつまずきの原因になっています。

本記事では公表された処分事例を整理したうえで違反がどの工程で生まれ、どこで止められたのかを解説します。企画・依頼・キャスティング・実施後の各段階で確認すべき項目を示すため、社内の運用ルールづくりやクライアントへの説明にそのまま使える内容です。

この記事でわかること

✔規制対象は広告主であるという前提
ステマ規制の対象は、依頼を受けたインフルエンサーではなく依頼した事業者である。「#PRを付けてもらったから大丈夫」で確認を止めると、責任の所在を見誤る。

✔措置命令が出ている3つのパターン
公表された処分を並べ替えると、口コミへの対価提供・依頼投稿の転載・関係者による投稿の3つに集約される。最も多いのは、自社サイトへの転載でつまずく型である。

✔企画から転載までの工程別チェック
どの工程で何を決めておけば防げるかがわかり、依頼書の記載・契約での許諾範囲・キャスティング時の確認・実施後の証跡管理を、そのまま社内ルールに落とし込める。

ステマ規制で問われるのは「関与」と「わかりやすさ」

規制の対象は広告主。インフルエンサーは対象外

いわゆるステマ規制は、2023年10月1日から施行されています。正式には「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」という名称で、景品表示法第5条第3号に基づく指定告示として規制されています。ステマ規制という呼び方は通称です。

実務上、最も重要なのは責任の所在です。消費者庁は、規制の対象となるのは商品・サービスを供給する事業者、つまり広告主であり、企業から依頼を受けたインフルエンサー等の第三者は規制の対象とならないと明示しています。またここでいう広告には、企業がインフルエンサー等の第三者に依頼・指示するものが含まれ、SNS投稿やレビュー投稿だけでなく、テレビ・新聞・ラジオ・雑誌等の表示も対象とされています。

つまりインフルエンサーが表記を忘れた場合でも、問われるのは依頼した企業です。「先方に任せている」という運用は、リスクを外部に委ねているように見えて、実際には自社に残したままの状態になります。だからこそ対策は、注意喚起ではなく発注フローそのものに組み込む必要があります。

出典:消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。」

判断されるのは「関与があるか」と「広告とわかるか」

該当するかどうかは、大きく2つの点から判断されます。事業者の関与があるかどうかと、それが広告であると消費者に判別できるかどうかです。

判断される点

問題になりやすい状態

問題になりにくい状態

事業者の関与

依頼、指示、対価や商品の無償提供がある

第三者が自発的に投稿している

広告としての判別

表記がない、または埋もれて気づけない

広告であることが明瞭に示されている

消費者庁は、個人の感想等の広告でないものやテレビCMのように広告であることが分かるものは対象外としています。逆に言えば、企業が何らかの形で関与しているにもかかわらず、それが読む側に伝わらない状態が問題になります。

注意したいのは、関与は金銭の支払いだけを指すわけではないという点です。商品を無償提供したうえで投稿を依頼する、投稿の方針を指示するといった行為も、関与として扱われた事案があります。「お金は払っていないから広告ではない」という整理は成り立ちません。

「#PRを付けた」だけでは終わらない理由

表記さえ付けていれば安心かというと、そうとも限りません。理由は2つあります。

ひとつは表記の位置や見え方です。投稿の末尾や大量のハッシュタグの中に埋もれている場合、形式上は表記していても、消費者が広告だと判別できる状態とは言いにくくなります。

もうひとつが投稿後の扱いです。インフルエンサーの投稿自体は適切に表記されていても、その投稿を企業が別の場所に転載する段階で表記が失われ、問題になった事案が繰り返し出ています。実はこれが、公表されている処分のなかで最も多い型です。この点は後ほど詳しく扱います。

関連記事:レピュテーションリスクとは|炎上だけではないSNS施策の評判管理

措置命令が出ているのは、大きく3つのパターン

施行以降、消費者庁や自治体から措置命令が出ています。公表されている事案を、企業名ではなく「何をしたか」で並べ替えると、つまずき方はおおむね3通りに整理できます。
fig01 stealth marketing three patterns 1

パターン1:高評価の口コミに対価や割引を出す

規制施行後に初めて措置命令が出たのはこのパターンでした。2024年6月、あるクリニックが、来院者に対して地図サービスの口コミ欄に高い星評価を投稿することを条件に接種費用を割り引いていた事案です。2025年3月には歯科医院で、星5の投稿を条件に商品券の提供または治療費の割引を伝えていた事案でも措置命令が出ています。

2025年8月にはエステサロン事業者について、口コミサイトで星5の投稿を条件に次回利用時の割引を伝えていた事案が公表されました。ただしこちらは措置命令ではなく確約計画の認定であり、違反が認定されたものではない点には注意が必要です。

共通しているのは評価の内容を条件に見返りを提供している構造です。事業者の関与があり、読む側にはそれが分からない。この2つが揃っています。

実務への影響は医療や店舗に限りません。レビュー投稿でポイントを付与する施策、アンケート回答に謝礼を出す施策、サンプリング後に感想の投稿を求める施策は、設計を誤ると同じ構造になり得ます。

パターン2:依頼した投稿を自社サイトに転載し、依頼の事実を示さない

公表事案のなかで最も件数が多いのがこの型です。

2024年8月にはフィットネス事業者、2024年11月と2025年3月には製薬メーカー、2025年3月には健康食品事業者について、いずれも対価や商品の無償提供を条件にインフルエンサーへ投稿を依頼し、その投稿を依頼したものであると明らかにせずに自社ウェブサイトに抜粋して掲載していた点が問題とされました。健康食品の事案は東京都による処分で、自治体としては初のステマ告示違反でした。

いずれの事案でもインフルエンサー側の投稿そのものが問われたわけではありません。問題になったのは、企業が自社の管理する場所に転載した表示です。

パターン3:自社の従業員・関係者による投稿

3つ目は、社内からの発信です。前述のエステサロンの事案では、従業員自身が高評価の口コミを投稿していた点も併せて指摘されました。

従業員が自社商品の感想を投稿すること自体が直ちに問題になるわけではありませんが、会社の指示や推奨があった場合には、事業者の関与にあたる可能性があります。悪意のない投稿でも構造としては同じになるため、社内向けのルールを明文化しておくことが必要です。

いちばん多いのは「二次利用」でのつまずき

投稿は適法なのに、転載で問題になる理由

パターン2を時系列で分解してみます。

企業がインフルエンサーに依頼し、インフルエンサーが「#PR」を明記して投稿する。ここまでは、広告であることが読む側に分かる状態です。問題が生じるのはその次で、企業がその投稿を自社のランディングページやECサイトに「お客様の声」として掲載する段階です。

このとき、表示の主体はインフルエンサーから企業へ移ります。そして転載の過程で、元投稿にあった表記が落ちる。結果として企業が依頼した投稿が第三者の自発的な感想として並んでいる状態ができあがります。

投稿の段階では問題がなかったからこそ、転載の段階で確認する習慣がないまま進んでしまう。これが同じ型の処分が繰り返されている理由だと考えられます。

表記が落ちる典型的な場面

実務で起こりやすいのは次のような場面です。

投稿のスクリーンショットを掲載する際に、レイアウトの都合で表記部分をトリミングしてしまう。画像だけを抜き出して使い、キャプション内にあった表記が一緒に消える。「SNSで話題」「絶賛の口コミ続々」といった見出しを添えることで、依頼した投稿であるにもかかわらず第三者の自発的な声という印象を強めてしまう。掲載期間が長く、元投稿が削除された後も転載だけが残り続ける。

どれも悪意なく起こります。だからこそ担当者の注意ではなく、確認の工程として組み込む必要があります。

転載するときの明示と許諾の取り方

転載する場合は、元の投稿と同じように事業者の依頼による投稿であることが消費者に分かる形で示す必要があります。ページの最下部や小さな注記ではなく、その表示を見る人が気づける位置に置くことが前提です。

あわせて決めておきたいのが二次利用の許諾範囲です。インフルエンサーの投稿は本人の著作物であり、転載にはそもそも許諾が必要になります。自社サイト、EC、広告配信、店頭什器、使用期間のどこまでを含むのかを、依頼の段階で切り分けておきます。施策が終わってから許諾を取りに行くと表記の議論に入る前に使えるかどうかで止まってしまいます。

なお、個別の表示がステマ規制に該当するかどうかは、関与の度合いや表示内容によって判断が分かれます。実際の施策では、必ず弁護士などの専門家に確認してください。

関連記事:UGCとは?クチコミが増え始める「最初の投稿」の設計

「PR表記があると効果が落ちる」は本当か

転載時に表記が落ちる背景には、「広告だと分かると読まれない」という感覚があります。この前提は、データで見るとどうでしょうか。

エクスクリエの調査(2026年8月)によるとSNSや動画サービスをきっかけに直近購入した商品について、購入の後押しに最も影響した発信者の「信頼できる」「参考になる」と感じた要素は、「説明が詳しかった」が32.4%で最も高く、「正確な情報だと感じた(公式アカウントなど)」が22.1%で続きました。一方、「広告・PR表記がなかった」を挙げた人は10.4%にとどまっています。

購入への影響が最も大きかった発信者として「一般ユーザー」を挙げた層に絞ると、上位は「説明が詳しかった」(29.7%)、「本音で話していると感じた」(25.5%)、「デメリットや注意点も伝えていた」(22.1%)でした。

関連記事:【エクスクリエ調査レポート】SNS・動画サービスにおける購買行動に関する調査(2026年)

信頼の根拠として挙げられているのは表記の有無ではなく情報の中身です。説明が具体的か、率直に話しているか、良い面だけでなく注意点にも触れているか。表記を隠すことで得られるものは限定的である一方、失うものは処分と評判の両面に及びます。表記を前提としたうえで、投稿内容の質をどう上げるかに労力を向けたほうが、施策としても合理的だと考えられます。

ステマ規制違反は発注のどの工程で防げるか? 

ここまでの内容を実際の進行に沿って整理します。違反は投稿の瞬間に生まれるのではなく、その前の決めごとが抜けていたために生まれます。

fig02 stealth marketing workflow checkpoints

 

企画:二次利用の範囲を先に決める

企画段階で決めておきたいのは、投稿をどこまで使うかです。SNS上で完結させるのか、自社サイトやECにも展開するのか、広告配信の素材として使うのか。ここが曖昧なまま進むと後から追加で使いたくなったときに、許諾も表記も後追いになります。

キャンペーン設計の段階では、投稿を条件に特典を出す設計にしていないか、評価の内容を条件にしていないかも確認します。

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依頼書:表記の文言・位置・期間を指定する

インフルエンサーへの依頼書には、表記の文言と表示位置を具体的に書きます。「PR表記をお願いします」では、担当者ごとに解釈が変わります。使用する文言、投稿のどこに置くか、動画の場合は画面内に表示するのか概要欄に記載するのか、表示を残す期間まで指定しておくと、確認する側の基準も揃います。あわせて二次利用の範囲と期間を契約に含めます。

キャスティング:過去のPR投稿で表記が適正だったか

選定時はフォロワー数やエンゲージメントだけでなく、過去のPR投稿で表記が適切に行われていたかを確認します。表記の習慣がないアカウントは、依頼しても同じ状態になりやすいためです。投稿全体に占めるPR投稿の割合もあわせて見ておきたい指標です。

REECHでは、起用前の確認範囲を本人の投稿だけに限定せず、リポストやコメント欄、別名義のアカウント、過去のメディア掲載まで含めて確認しています。表記の運用状況は、その確認項目のひとつとして扱っています。

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実施中・実施後:転載前の最終確認と証跡

投稿後は依頼どおりの表記になっているかを実際の画面で確認します。ここまでは多くの現場で行われています。抜けやすいのはその先です。

自社サイトやECに転載する前に、表記が保たれているかを確認する工程を、別途置いておきます。制作を外部に委ねている場合は、素材を渡す時点で「表記部分をトリミングしない」ことを条件として伝えます。

あわせて、依頼内容・表記の指定・実際の投稿画面をレポートとして残しておくと、後から確認を求められたときに説明できます。

工程

決めること・確認すること

企画

二次利用の範囲(自社サイト・EC・広告・店頭)と期間

依頼書・契約

表記の文言と位置、表示期間、二次利用の許諾範囲

キャスティング

過去のPR投稿での表記運用、PR投稿の割合

投稿直後

指定どおりの表記になっているかを実画面で確認

転載前

転載先で表記が保たれるか、見出しの表現が誤解を招かないか

実施後

依頼内容と実投稿の記録、掲載期間の管理

口コミ・レビュー施策で線を越えないために

「投稿を条件に特典」はどこから危ないか

レビューやUGCを増やす施策では、特典と投稿を結びつける設計がよく使われます。ここで区別しておきたいのが投稿すること自体への特典か、評価の内容を条件にした特典かです。

処分事例で問題とされたのはいずれも星5などの高評価を条件にしていたケースでした。評価の中身を買う設計は消費者の判断材料を歪めるため、明確に避けるべきです。

一方、投稿の有無を条件にする設計であっても企業の関与があることに変わりはありません。そのため、依頼に基づく投稿であることが分かる表記は必要になります。「良い評価を求めていないから大丈夫」ではなく、「関与があるなら示す」という基準で考えるほうが、判断がぶれません。

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モニター・サンプリング施策での示し方

商品を無償提供して感想の投稿を依頼する施策も関与にあたり得ます。投稿の文面を指定していなくても、提供と依頼があれば同様です。

そのためモニター募集の段階で表記のルールを伝え、応募要項にも明記しておきます。参加者はマーケティングの専門家ではないため、「#PR」を付ける理由まで簡潔に説明しておくと、運用が安定します。投稿された内容を自社で使う場合は、ここでも二次利用の許諾と表記が必要です。

社内・クライアントへの説明のしかた

「ステマ規制は大丈夫か」と聞かれたときに「表記は徹底しています」とだけ答えても確認する側は判断できません。求められているのはどの工程で誰が何を見ているかです。

企画書に一枚添える形で想定されるリスク、各工程での確認項目、確認の担当者、問題が見つかったときの対応を整理しておくと承認する側も判断しやすくなります。特に投稿後だけでなく転載前にも確認工程があることを示せると、理解の解像度が上がります。

法務部門との関係でも同じです。個別の表示が規制に該当するかどうかの判断は専門家に委ねる前提としたうえでマーケティング側が「どの工程で何を確認しているか」を示せると、相談のたびに一から説明する必要がなくなります。

まとめ

  • ステマ規制の対象は商品・サービスを供給する事業者であり、依頼を受けたインフルエンサーは対象外です。表記を守らせる責任は発注側にあります。
  • 公表されている措置命令は、高評価の口コミへの対価提供、依頼投稿の転載、関係者による投稿の3つのパターンにおおむね整理できます。
  • 件数が最も多いのは、インフルエンサーの投稿を自社サイトに転載する際に依頼の事実が示されなくなる型です。投稿の時点では適法であるため、確認から漏れやすくなっています。
  • 調査では購入への影響が大きかった発信者について信頼の根拠に挙げられたのは説明の詳しさや率直さであり、PR表記がないことを挙げた人は限られていました。表記を隠す合理性は高くありません。
  • 対策は注意喚起ではなく工程に組み込みます。企画で二次利用の範囲を決め、依頼書で表記を指定し、選定時に運用実績を確認し、転載前にもう一度確認する流れをつくることが有効です。

ステマ規制に関するよくある質問

Q. インフルエンサーが表記を忘れた場合、責任は誰にありますか?

景品表示法上の規制対象は、商品・サービスを供給する事業者です。依頼を受けたインフルエンサーは規制の対象になりません。そのため、表記の指定と確認は依頼した企業側の責任として設計する必要があります。

Q. 商品を無償提供しただけでお金は払っていません。それでも広告になりますか?

金銭の支払いがなくても、商品の無償提供とあわせて投稿を依頼している場合や投稿内容に関与している場合は、広告として扱われる可能性があります。対価の有無だけで判断しないほうが安全です。

Q. インフルエンサーの投稿を自社サイトに掲載するとき、何が必要ですか?

依頼に基づく投稿であることが掲載先でも消費者に分かる形で示されている必要があります。あわせて、投稿は本人の著作物であるため、二次利用の許諾を得ていることも前提になります。掲載範囲と期間は、依頼の段階で決めておくことをおすすめします。

Q. 従業員が自社商品の感想をSNSに投稿するのは問題ですか?

投稿すること自体が直ちに問題になるわけではありませんが、会社の指示や推奨があった場合には事業者の関与として扱われる可能性があります。社内向けの投稿ルールを整備し、関与がある場合の表記の扱いを定めておくとよいでしょう。

Q. 違反した場合、どうなりますか?

再発防止などを求める措置命令の対象となり、事業者名が公表されます。あわせて優良誤認表示や有利誤認表示にあたる場合は、課徴金の対象となることもあります。処分そのものに加え、公表による評判への影響も踏まえて設計することが大切です。

※ステルスマーケティング規制の該当性は、事業者の関与の度合いや表示の具体的な内容によって判断が分かれます。実際の施策では必ず弁護士などの専門家に確認してください。

【執筆者プロフィール】
兼重 成美
株式会社エクスクリエ マーケティングG

インフルエンサー会社でのキャスティング・ディレクション実務を経て、インフルエンサー施策をテーマにしたウェビナーの企画・運営に従事。現在はクロス・マーケティンググループにて、「エクスクリエ」「REECH」「トキオ・ゲッツ」の3社横断でマーケティングを担当。エクスクリエおよびREECHのオウンドメディア運営・コンテンツ制作を担い、REECHではSNS施策の実務情報を広告代理店・メーカーのマーケター向けに発信している。

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